2021年2月16日 第22回AUEアカデミックカフェを開催しました。
2021年03月01日
2月16日(火),次世代教育イノベーション棟にて,社会科教育講座 土屋武志教授を講師として,第22回AUEアカデミックカフェ「アジア共通歴史学習の可能性『日本型教育の二つの流れ』」を開催し,教職員,一般,学生あわせて59人が参加しました。
講演は,福山雅治の『クスノキ』を歌い継ぐ「クスノキリレーソング」の紹介から始まりました。この曲は被爆後奇跡的に芽を出した長崎市山王神社の楠をモデルに平和への願いを込めた曲です。土屋教授は長崎市出身で,自身のライフヒストリーを織り交ぜながら講演を行いました。土屋教授は長崎市で生まれ育ち,被爆体験を聞いたり平和について学んだりする機会が多くありました。また,戦時中母親は朝鮮半島で生活しており,そこでの暮らしぶりや引き上げの時の様子などを聞いていました。原爆について否定的な考えを持っていましたが,そうではない意見を持つ人がいることや,母親から聞いていた豊かな生活とは反対に,辛い生活を強いられた人々がいることは,歴史の研究を続けていく中で,初めて知ることとなりました。このような体験から,社会には,いろいろな立場の人がいることを知るようになり,歴史のテストで行われているような○か×かの二者択一で判断してはいけないのではないかと感じるようになってきたとのことでした。
そして1994年,若手教員派遣事業でイギリスに2週間ホームステイをする機会がありました。イギリスの中学校教科書には,日本の教科書よりも原爆のことがたくさん掲載されており,「その時,あなたがジャーナリストだったらどう伝えるか」といった設問があるなど,生徒がその事実を考える解釈型の学びこそが歴史学習であることに気付いたそうです。このことは,土屋教授自身にとって大変貴重な体験となりました。
土屋教授は当日の新聞から切り抜いたさまざまな記事を参加者それぞれに一つずつ配布し,「100年後の人がその記事を読んだら,100年前はどんな世界だったと思うでしょうか」と問いかけ,同じ過去でも情報(記事)が違えば違う世界に見えることに気付きを与えました。そして,「たとえ同じ場所に住む日本人でも,住んでいる時期によっては違う考え方をするだろう」とも説明しました。参加者はこのことを体験的に理解することができました。
戦前の日本の教育にもこのような多面的な見方は存在し,教師が正解を教えるだけではない,子どもが自ら答えを発見していくような歴史学習が行われていました。土屋教授は「どちらか一つが正しい答えである,という考え方を克服できるように,歴史の学びを変えていきたい」と話しました。各国の歴史の多様性を認めつつ,過去を未来に生かしていくという視点で,平和や人権の歴史をアジアの人々で共有していく必要があると述べました。
講演の最後は再び「クスノキリレーソング」の話となりました。「クスノキリレーソング」は長崎のさまざまな人々が関わり被爆の歴史を伝えています。歴史は歴史研究者だけのものではなく,市民がどう見てどう考えるかであり,その表現方法は多様であってよいと土屋教授は結びました。
今回の講演に,参加者からは「歴史の見方が変わった」「多面的な見方を許容する文化の大切さを再認識した」といった感想が聞かれ,新しい歴史の視点をもたらした貴重な機会となりました。
(広報課 副課長 古田紀子)