美術教育講座 永江智尚講師が日展で特選を受賞
2018年01月16日
本学の美術教育講座 永江智尚講師が改組新第四回日展の彫刻で特選を受賞しました。受賞の喜びの声と彫刻への思いを聞きました。
―特選の受賞おめでとうございます。受賞しての感想をお聞かせください。
受賞はまだまだ先だと思っていたので驚きました。日展で特選をとるのはもっと熟達した方が多いのです。もちろん優秀な方は若くしてとられるのですが,自分の作品はまだ破綻が多いと思っていますので。
―作品に破綻が多いとはどういうことですか?
現代の芸術表現の多くは,新たな表現方法を提案していく開拓的な芸術分野かと思います。それに比べると,私が行っているような,人などの自然物を具体的な形で表現する分野は,今までの彫刻という枠の中で,より深く突き詰めていく芸術分野であり,追求するための基礎力が要求されます。例えば,人体立像作品の場合,「立っているように見えること」が重要視されます。「立つ」ことは,対重力の構造を得ていること,つまり,その作品が自然の理(ことわり)を得ていなければ,なし得ないことです。そして,対重力を得ていることで生命感が生まれ,生命感があってはじめて「悲しい」とか「嬉しい」という感情表現などの話ができるようになります。このように,基礎を前提に表現が成り立つのですが,私はその基礎の部分にまだ破綻が多いと思っています。ただ,授賞式会場で諸先輩から,「破綻はあるけれども,破綻を恐れずに仕事しているところが良い,これからもまとまらずに頑張りなさい」とも言われました。破綻を克服することは一筋縄にはいかないと痛感します。
―受賞作品について教えてください。
作品名は「螺II(つぶに)」と読みます。以前「螺(つぶ)」という作品を作っており,螺旋(らせん)を意識して作った作品です。ある彫刻家が文献で「人体の動勢の法則は螺旋である」と言っているのを読んだのですが,人体に限らず,すべての自然物に螺旋構造を見ることができます。例えば,人体の肩から手を見ても螺旋構造がありますし,木を下から見ると枝も幹も螺旋状に動いています。螺旋をできるだけ多く見つけ,それを見やすく表現するよう意識して構成した作品の2作目なので「螺II」です。
―彫刻の道に進んだきっかけは何ですか。
中学生の時,人が涙を流して感動するような仕事をしたい,自分にしかできない仕事をしたい,と思ったことが芸術を志したスタート地点です。高校進学後,彫刻の指導者であった上床利秋先生に出会い,自分の思いを「存在」でダイレクトに伝えることのできる彫刻の魅力を教えていただきました。その後,作品を図録で見てぜひ学びたいと思った柴田良貴先生のいる筑波大学へ進み,先生に彫刻の基礎の基礎から,人としての礼儀など多方面から学び,現在に至っています。
―芸術家になりたいと思って,その通りになられて,今回の特選受賞で素晴らしいですね。
いえいえ,順風満帆には歩んできていないのですよ。彫刻を作るには広くて,200kgの粘土に耐える床が必要なので,大学卒業後でお金のない私のアトリエ探しは難航しました。やっと山間に見つけた理想の一軒家は旧?屠殺場(肉屋)で,牛や豚を解体するために広く,コンクリートの床でした。ただ,蛇口から出るのは井戸水で,飲み水は近くの湧き水をくんできたり,トタン屋根で隙間風もすごく,マイナス5度で粘土が凍ったりでした。2年住んだ後,都内の特別支援学校に就職できましたが,それから7年間は東京に住み,そのアトリエまで120kmの道のりを通い,週末に制作していました。
―そうまでして作りたいという欲求があったのですね。
うまくいかないので続けているところもあります。作品が生命感を帯びてきても,実際の自然には至らないです。近づこうと思うけれどもできない,できないからくやしい,くやしいから続ける,といった感じでしょうか。
―今後の展望をお教えください。
一つは真面目に謙虚な姿勢で自然物を見て造形していきたいと思っています。まだ自分よがりで,ねじまげて作っているところがあり,そこが破綻につながっているのかなと思います。もう一つは,これまでの彫刻文化を継承し新たな自分の石(個性)を一個のせるような作品を目指しているわけですが,その一個にまだブレがあるので,永江の作品はこれだというような一個を見いだしていきたいと思います。
(インタビュー:広報?地域連携課 広報?渉外係長 古田紀子)