祝!日本人として唯一、本学美術教育講座の井戸真伸教授がCOCA 2021に選出されました。
2021年09月29日
イタリアで開催される世界規模の現代美術展に、日本人として唯一、井戸真伸教授が選出されました。美術教育講座の井戸真伸教授が、イタリアの主催者からの推薦でCOCA 2021に参加し、日本人として唯一、トップ10(実際には12人)に選出されました。
このCOCAとは CENTER OF CONTEMPORARY ARTISTS の略で、2018年に第1回目が開催され、今回で3回目となります。個々の作品によるコンペティションとは違い、アーティストそのものにフィーチャーして競われるもので、基本的には公募制。選考方法はプレ審査、一次?二次審査、ファイナル、さらにトップ10と5回の審査を経て選考されています。
また、今回の総応募数は現時点で未発表ですが、過去には4万人近い応募があり、今回は世界101カ国からの応募があったとの情報があります。
COCA 2021 のトップ10に選出された井戸真伸教授へ受賞インタビューを行いました。
─ 受賞おめでとうございます。
─ 今回のCOCA2021 受賞アーティストに選考された気持ちについて聞かせてください。
イタリアの主催者からの推薦を受け、COCA 2021に参加することとなり、日本人として唯一、トップ10に選出されたことを大変光栄に思っています。同時に、そもそも私はデザインが専門ですので、「現代美術」という世界に選出されたことに、正直驚きや戸惑いもあります。2021年にイタリアで展覧会を開催することになりましたが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により延期となり(今後の詳細は年内に確定予定)、時間ができた分、「現代美術とは何か?」自分なりの考えでこれまでとは全く違う新作に挑み、何かしらのメッセージを発信したいと思っています。
─ この作品を制作したきっかけについて教えてください。また、この作品の制作にあたって影響を受けたものはありますか。
この作品「HIMAWARI」は、2019年に韓国で開催された国際コンペティションで発表した十数点の作品の内の一つです。
画像はコンピュータグラフィックスで作成したものですが、実物は陶磁器となり、スパッタリングという真空成膜技術で金属被膜を形成していきます。
ひまわりの種子配列を模写しているというか、松ぼっくりの笠やオウムガイ、巻貝(実は二枚貝も)の殻など、自然界のさまざまなところにみられる曲線(螺旋)と、同じような曲線を無数の点で描いています。当初は全てフィボナッチ数列(黄金比)によるベルヌーイ曲線(対数螺旋)だと思っていましたが、観察してみると、さまざまなベルヌーイ曲線になっていることがわかりました。自然界における黄金比というのは、案外都市伝説なのかもしれません。
─ 作品の制作はどのような手法を使っているのでしょうか。
基本的には、コンピュータ上で立体を作成し、このデータをもとに、樹脂をCNC(コンピュータ数値制御)で切削して原型を作り、その原型を石膏で型取りして、実際の材料に置き換えるというステップを踏みます。
この作品の場合は、手描きのスケッチ等でアイデアをまとめた後、竹でかごを編んだような形状が実際にどのようになっているのかをよく観察し、どういうパターンをユニットにして用いると、一つの立体になるのかを考えながらコンピュータで実際に設計して、シミュレーションをしながらデザインしたものです。編んだような形状が複雑なので、14分割した割型を使うことにしましたが、この複雑な形状の原型から割型を作ること自体が非常に困難なため、従来とは全く違う、新しい型の作り方を考え、試しました。今まで誰も行っていない手法なので、今後論文にまとめて発表したいと思っています。
従来の陶磁器製造の現場では、コンピュータを使用することはほとんどなく、原型自体も職人さんが石膏を手で削って作っていました。私も石膏で原型を作りますが、その場合、自ずと形状的な限界や精度の限界があります。元々アナログ派の私でしたが、1994年頃に「光造形(ラピッドプロトタイピング)」と言われる当時の最先端デジタル技術を目の当たりにして衝撃を受け、そこに手ではできない新たな可能性を見出し、コンピュータをデザインと制作に取り入れるようになりました。コンピュータを用いることは、陶磁器など地場産業に対しては、後継者(職人)不足の問題を解決したり、手では不可能だった形状や精度を生み出すことができるなど、多くのメリットがあります。また、光造形やCNC切削だけではコスト高となるので、近年は、さまざまな3Dプリンターを活用したり、石膏でできる部分はなるべく石膏を使ったりと、それぞれのメリット?デメリットを考慮しながら、一つの作品に対してもハイブリッドな方法を模索しています。
─ どのような時に作品のアイデアが浮かびますか。
自身の中から湧き出る感性で造形を創るというより、理論的に考えることが好きなので、そのものの意味や機能的な部分、さまざまな現象の仕組みや原理の面白さ、数学的な美しさなどが気になって、デザインや作品づくりのヒントとなることが多いです。
また、自然界や宇宙、物質の構造等はとても興味深く、面白いと感じています。最近テレビで観たプラチナコガネがどういう仕組みで反射しているのかと興味を持ちました。あらゆることに興味を抱いていて、一見デザインと全く関係ないと思えることでも、ヒントになることが多々あります。
─ 井戸先生の数ある作品の中でお気に入り作品はありますか。また、今後の活動予定や目標について教えてください。
最近、卒業生が立ち上げたジュエリーブランドとのコラボレーションを目指して、ご飯粒をモチーフにした「銀謝浬」というピアスをデザインしました(一粒の銀のご飯がピアスになっている)。まだこれは自分で割り箸を削り、塗装しただけの模型ですが、このピアスを付けていることで「何それ?何つけてるの?」といったコミュニケーションが生まれることを狙っています。つまりこれはカタチのためのデザインではなく、コミュニケーションのためのデザインであって、デザインの本質を上手く表現できたかなと思っています。このブランドの作品はこれからますます面白くなっていきますので、期待していてください。
私自身は常にいろいろなものに興味があります。陶磁器を扱うことが多いですが、素材を限定しているわけでもなく、なるべく未知な材料にも関心を持ち、今後も新しいものを創り出していきたいと思っています。特にデザインとその周辺(例えばファインアートやエンジニアリングなど)との「見えない境目」に存在しうるものに最も関心と可能性を抱いています。もしかすると今現在の手法はエンジニアリングに寄っているかもしれないし、思想はアートに寄っているかもしれません。今回の件で言えば、イタリアの主催者が、私の多くの作品をアートとして捉えたのもその結果だったかもしれないですし、もう半歩くらいデザインの外側へ踏み込んでみたいと思っています。
─ 最後に、井戸先生のもとでデザインを学んでいる学生、今後デザインの勉強に興味を持っている子どもたちにメッセージをお願いします。
学生はほぼ初めてデザインをすることになるので、さまざまな過去の名作などを見ながら「デザインとは何なのか」から始まって、デザインのイロハを学んでいくことになります。また、テクニックの部分は、大学の4年間に学んでいく中で、自ずとわかるようになります。 それとは別に、デザインの世界だけを見ていると、中々そこから抜け出せないので、新しい自分の世界を見つけられるよう、視野を広げていろいろなことに興味を持ってほしいです。むしろ、一見全然関係ないように思えることにこそ目を向けた方が、自分なりの新しいデザインの世界を見つけるきっかけになると思います。
(広報課 副課長 長谷川由香)