HATOプロジェクト大学間連携による教員養成の高度化支援システムの構築
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教員養成系大学における障害学生支援ブックレット

第Ⅲ章 コラム4(聴覚障害のある学生)

名前 勝田 夏実(26歳) 中等度難聴
学歴 東京学芸大学 特別支援教育特別専攻科修了
職歴 特別支援学校(教職暦3年)

1.はじめに

私は生まれつきの中等度難聴です。静かな場所での1対1の会話はあまり困りませんが、集団になると聴き取れないことが増えます。
小学校、中学校、高校は一般校に通いました。補聴器をつけ始めたのは、大学入学時です。卒業後、特別支援学校の先生になるために東京学芸大学の特別支援教育特別専攻科で1年間学び、現在念願の特別支援学校の先生として楽しく学びある日々を送っています。

2.在学時、あってよかった支援

私のそれまでの学生生活では、自分で聴くということがあたりまえで、情報保障を受けたことがない以前に、情報保障とは何か、どのような人にとって必要なのかという知識もまったくありませんでした。
専攻科で出会ったデフの友人が、授業のときにパソコンテイクによる情報保障を利用していました。ある日の授業でたまたま彼らのうしろの席に座り、ふとパソコンを覗いたときに衝撃を受けました。画面には、私が聴き取れていなかったたくさんの言葉が打ち出されていたのです。「だいたいは聴こえている」と思っていた教授の話は、実は聴き取れていなかったのかということに気づきました。すぐに障がい学生支援室の先生に私もパソコンテイクを受けたい!とお願いし、体制を整えていただきました。こうして、希望したいくつかの授業でパソコンを1台増やしてもらい、人生で初めての情報保障を受けるようになりました。授業では、聴き取ることに集中するのではなく、理解することに集中して講義を受けられるようになり、勉強が楽しくなりました。障がい学生支援室という相談しやすいあたたかい場所があったこと、支援室の先生が、中等度難聴の困難を受け容れすぐに対応してくださったおかげです。本当に感謝しています。

3.在学時、あったらよかった支援

たいへんだったのは都内の特別支援学校の学校見学と知的障害特別支援学校での教育実習です。校内を移動しながらの学校見学では手話通訳が派遣されていましたが、当時の私は手話ができませんでした。案内してくださった先生の話を全部聴き取ることはむずかしく、かといって手話通訳を見ても読み取ることができず、苦労しました。このような場面で音声認識ソフトが利用できるようになったら便利だなと思います。
教育実習では、実習校に情報保障という体制がなかったのですが、当時の私には大きな声で話してもらうことを要望することしかできず、それだけでは限界がありました。支援室の先生や実習校の先生方に事前にきちんと相談しておけば良かったと大いに反省しました。
中等度難聴者は「すきま」にいることを感じます。手話ができない難聴者は多くいますし、文字情報の方が良いときもあれば、音声拡張器を利用した方がわかりやすいときもあります。環境によって必要な情報保障が変わることは、中等度難聴者にたいする支援の難しいところかもしれません。幅広い情報保障が選べるようになると良いと思います。

4.教師を目指す後輩と、その支援者へのメッセージ

自分はどのような障害をもっているのか、どのような情報保障を必要としているのか、どのような方法だったらわかりやすいのか、それがわかるのも伝えられるのも自分だけです。自分でことばにできなければ、相手には伝わりません。学生時代の私はそれが本当に曖昧で苦手でした。
そのせいで、辛い思いもしました。自分のことを伝えることができないせいで満足な支援が得られないのは、自分の責任だと思います。「支援者ならわかってくれるはず」「どうしてわかってくれない」と思い込むのではなく、正直に、ことばにして、とことん話し合うことがたいせつだと思います。

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