第Ⅲ章 コラム―卒業生?修了生からの声― コラム1 (視覚障害のある学生) 名前: 金澤 直(37歳) 視覚障害(全盲?点字使用) 学歴: 日本大学 文理学部卒業?北海道大学大学院 理学研究科修了 職歴: 埼玉県立白岡高等学校(数学)(教職暦約10年) 1.はじめに 私は生まれつき視覚に障害があり、現在は光や目の前のものがわずかに認識できる程度です。高校までは盲学校で過ごし、大学、大学院を経て、現在は公立高校で数学の教員として勤務しています。 2.在学時、あってよかった支援 私は学部、大学院ともに十分な環境の下で学びました。必要なテキストは点字にしていただきました。点字プリンタをはじめとした支援機器類をいつでも利用できました。定期考査なども点字で受験しました。ですが、それらの他にありがたかった支援が二つあります。 一つ目は、私の支援をあまりマニュアル化せず、具体的な方法は柔軟に相談できた点です。授業のプリントは点訳した方がいいか、事前にデータでもらえるか、実習系の授業にはどのように参加するかなどを、講座ごとに私と担当教員とで話し合いました。教科書も、音訳でも差しさわりのないものはボランティアの方に読んでもらいました(点訳よりも作業時間が短いので)。講座の特性によって、メールのやり取りで考査を受験したこともあります。テキストの点訳については大学とボランティアの間で契約が結ばれていましたが、私がボランティアの方と直接話ができるように取り計らっていただけたため、細かいことを円滑に打ち合わせることができました。必要な支援の内容はまずは私と支援者の間で決める、それを大学にフォローしてもらえる、この私と大学と支援者の距離感が絶妙だったと感じています。 二つ目は、担当の先生が、周りの学生に自然と支援する雰囲気を作ってくださったことです。セミナーで私が発表をするときは、担当教員の指示で、私がしゃべった内容をほかの学生が板書する形式になりました。手伝ってくれる学生との事前準備は必要でしたが、快く受け入れてくれました。また、幾何の演習で私を含む何人かの友人たちが質問をすると、教員は、数式や図など書いて説明したほうが速いときは筆記して説明します。そして、「金澤にも後で教えておいて」と友人たちに言います。するとその授業の後に、理解した友人が丁寧に私にも教えてくれます。もちろん、ひとりで質問に行けば私に丁寧に説明してくれますが、先生方が私と周囲の学生たちとの関係を見たうえで、その学生たちのなかで私が勉強するという方向で指導してくださったのが、とてもよかったと思います。 3.在学時、あったらよかった支援 ありがたいことに、在学中は十分な支援を受けていました。ただ、実習先をうまく探せなかったのが残念です。普通高校への就職を希望していたため、教育実習も普通学校で行いたいと思いましたが、かないませんでした。また、介護等体験の実習先も見つかりませんでした。障害者手帳を持っていることでこの実習は免除されましたが、もっと自分で探せなかったか、ほかの視覚障害者がどのように実習先を探しているのかを調べればよかったと後悔しています。 4.教師を目指す後輩と、その支援者へのメッセージ 現在私は、授業をするときはチームティーチングの形をとり、板書や生徒観察を他の先生に依頼しています。部活の引率で初めての場所に出かけるときなどは、生徒にいろいろ教えてもらったり、手伝ってもらったりします。私たちは仕事をするなかで、いろいろな場面で健常者の支援を受けます。今思うと、大学生活はその訓練をする時間、場所だったのかなあと思います。在学中に支援してくれる人と積極的にかかわるなかで、どのように支援を受けるか考えていくことは、その後の働き方、生き方のヒントになるのではないかと私は思います。