第3節 教育実習 1.教育実習の位置づけ 教員養成系大学や教育学部のカリキュラムにおいては、小学校や特別支援学校など、学外での教育実習が必修科目?卒業要件となっています。 学外での教育実習は、学生にとって大学という守られた世界から外に出て、未知のものに触れ新しい体験を積む機会となりますが(高橋,2012)、慣れない環境で戸惑う事態に直面することにもなります。大学教員は、事前?事後指導だけでなく、実習中にも積極的に支援へ関与しています。日本学生支援機構による平成27年度の全国調査によると、障害のある学生に対して「学外実習?フィールドワークの配慮」を実施している大学の割合は26.7%となっています(日本学生支援機構,2016)。 障害のある学生が学外の教育実習に臨む際には、事前に大学関係者が現場に出かけ、本人も交えて教育実習の指導者と意志疎通や連携をはかるといった対応も必要となります。 教員を目指す障害のある学生にとって、教育実習で配慮すべき内容はどのようなものか、いくつかの観点から考えていきます。 2.教育実習開始前の検討事項 (1)教育実習における障害のある学生のニーズを把握する 教育実習は、実施場所が学外の施設であることや、実際に児童生徒や教師との関わりがあることから、大学での講義や演習とは違った配慮が必要となります。実習の流れをシミュレーションしながらその時々で生じる問題への対応を講じておくことが重要です。 障害によっては、補助具や機具などの設置?持ち込みが必要となる場合がありますが、そうした受け入れが可能かどうか、事前に実習先との調整を行っていくことになります。また、情報保障を担当する支援者の確保と派遣についても検討します。たとえば、聴覚障害のある学生の場合は、手話通訳者を派遣することが考えられますが、その他にも大学内で支援を行っている学生や、実習先に勤務している教職員などを支援者とするケースもあるようです。 (2)実習校および大学内の実習担当部署との連絡調整 指導教員や支援担当者が事前に実習先を訪ね、実習の担当者に配慮要請をする必要もあります。その際、留意事項を文書にまとめて渡しておくとよいでしょう。たとえば、発達障害の場合は問題が見えにくいことがあるため、大学内の保健管理センターや医療機関と連携して、配慮事項に関する文書を作成することが必要となります。しかし、どこまでの情報を開示するかについては、学生本人(あるいは保護者)と十分に話し合っておくことが重要です。 また、障害のある学生への対応について大学内での体制を整えておくことも必要です。教育実習の担当部署(教務課)、実習関連の委員会で学生への支援についての情報を共有しておきます。障害のある学生へは普段、ゼミの指導教員、クラス担任、障害学生支援室担当者などが関わっていますが、教育実習では実習担当教員や保健管理センター担当者も関与することになります。学生本人への対応、実習先との連絡などを誰が行うのか決めておくことが重要です。 (3)実習校選定 教育実習を充実したものにするためには、実習校の選択についても検討する必要があります。視覚障害や肢体不自由の場合、実習校への通学手段が課題となる場合があるため、障害のある学生が公共の交通機関を利用して通学することが可能かどうか検討する必要があるでしょう。 また、障害により生じる困難を理解し、実習への配慮を前向きに検討してくれるような実習先を確保することが重要です。たとえば聴覚障害のある学生が小学校教諭免許のための実習を行う場合、聾学校の小学部を選択することも考えられます。さらに連携の取りやすさという点から地域の学校ではなく大学附属の学校を実習先として選択するケースもあります。ただし、こうした実習校の選定にあたっては、学生本人の意思を尊重することが重要です。 3.事前?事後指導 教育実習の実施前と実施後には、きめ細やかな教育的配慮が必要となりますが、ほとんどの大学で教育実習に臨む事前と事後に大学での指導が用意されています。 事前指導においては、教育実習の手続きなどに関する情報を学生へ確実に伝えることになります。また、事前指導で模擬授業やグループワークの形式をとる場合もあります。障害のある学生の特性に配慮した情報保障を検討することが重要です。 事後指導は、実習後に実習での自己実践を客観的に考察し、今後の実践課題を明確にするために行われます。レポート提出や報告会などの形式で実施される場合、情報保障の配慮も必要ですが、次年度教育実習を行う障害のある後輩学生も参加することで、より効果的な引き継ぎを行うことが可能となるでしょう。 4.教育実習中の配慮 (1)観察型の実習 観察型の教育実習は、子どもの生活?学習活動や教師の指導活動などを客観的に観察していくタイプの実習です。多くの教員養成系大学では、教育実習を3~4年次に実施しています(HATO構成4大学においても、特別支援学校での教育実習は3年次もしくは4年次に実施をしています)が、1年次に観察中心の短期間の教育実習を実施する大学もあるようです。このように大学における支援体制がまだ十分に整っていない段階での学外実習にあたっては、障害のある学生へどのような配慮が必要か早い時期から検討することが重要です。 授業の観察における情報保障について、たとえば聴覚障害のある学生の場合は、手話通訳、ノートテイク、パソコンテイクなど、いくつかの方法のなかから適切なものを選んでいきます。また、学校での音声を遠隔地(たとえば大学など)で文字にして学生に伝えるといった、遠隔情報保障のシステムを導入する大学もあるようです。 (2)参加?実践型の実習 実際に学生が授業を行い、児童生徒と直接触れ合うような参加?実践型の実習において、いくつか検討するべき事項があります。 まず、学生が実施する授業の内容について、たとえば体育や音楽など、障害のある学生にとっては不向きな教科もあるかもしれません。学生が研究授業で担当する教科として妥当かどうかについては、実習開始前に検討をしておくことが必要でしょう。 実習を円滑に進めていくためには、実習先の児童生徒の理解についても検討しておく必要があります。実習先の児童生徒へ障害のある学生のことについて説明をする場合、その説明を学生本人から行うのか、あるいは事前に担任教員から障害理解についての説明をしてもらうなどの方法をとるのか、児童生徒への周知の方法に関して事前に調整を行っておくことが考えられます。 (3)実習先への視察および状況把握 教育実習中に、大学の担当者が実習の様子を視察したり、学生の指導教員と実習の状況について話し合う機会を設けることも重要です。仮にトラブルが発生してしまった場合には、対応について関係者が話し合う場を設定し、必要な環境調整を図るなどの対策を講じます。 たとえば自閉症スペクトラム障害のある学生の場合、その障害特性から実習の場面において、子どもの気持ちが読み取れない、子どもにわかりやすく話すことができない、予想外の状況に対応できない(パニックになる)などのような困難が予想されます。実習先の指導教員との意思疎通の問題が生じることがあるかもしれません。すでに述べたように、事前に情報共有を行っておくことが必要ですが、実習中にも障害についての正しい理解を求めていくことが重要です。